ボイス企画 かずのこ
0話リメイク小説 恋の障害物
「じゃ、またね」
友だちと別れ、下校中の立花茜は怪しい人物を見掛けた。
「あれは……」
茂みに隠れ、公園で仲良く話すカップルを殺気ムンムンで見つめる怪しい男。
「ちょっとバカズヤ! こんなところで何やってるのよ」
「うぉっ! 何だ茜かよ、脅かすなっての」
怪しい男改め、茜のクラスメイトの馬場一也。サッカー部のエースでお調子者のムードメーカー、いや、トラブルメーカーだろうか?
「公園で仲良く話すカップルを覗き見とは、良い趣味してるじゃない?」
「はぁっ!? カップルなんかじゃねーし! 俺は認めないからな! 俺は兄として妹の由香を守る! それだけだ!」
「由香ちゃんを? ……って、よく見ればあれ、由香ちゃんと天野秀一じゃん」
仲良く話しているカップルは、よく見れば一也の妹の馬場由香と、特進クラス、学年トップの天野秀一だ。
筋金入りのシスコンでとんでも行動をする兄のせいで由香は学校ではちょっとした有名人。天野秀一も学年トップの秀才、その上イケメンと有名なので特に親しくはなくても知っていた。
「あれ? でも何で由香ちゃんと天野が? あんた天野と親しかったっけ?」
「……幼馴染み」
「え……?」
「俺と秀一は幼馴染みなの。だから由香も秀一のことは昔から知ってて」
「幼馴染みって……マジ?」
「あぁ」
「うっそウケるんだけど! バカと秀才か幼馴染みとか!」
「バカバカうるせーよ」
笑い出した茜に対し、一也が抗議の声を上げる。
「だってさ、馬場一也馬場一也馬場一也バカズヤバカズヤバカズヤバーカ。ほら!」
「ほら! じゃねー!」
兄に見られているなど露知らず、由香は秀一と楽しくお喋りを続けていた。
「ねえ秀君、数学でどうしてもわからないところがあるの。教えてくれない?」
「もちろん良いよ。どこかな?」
「ここなんだけど……」
教科書を覗き込んでくるその姿に思わず見とれてしまう。
サラサラの金髪、緑色の瞳。優しくて、頭がよくて、弱点である音痴なところも由香にとっては美点に思えた。
幼馴染みの優しいお兄さん。ではなく、男の子としてずっと好きなのに、秀一は妹のようにしか思っていないことも由香は気づいている。
「……香ちゃん? 由香ちゃん?」
「え? あ、なあに? 秀君」
「こーら、ちゃんと聞いてないとダメだろう」
そう言って秀一が由香のおでこを軽く指で弾いた瞬間……
「あああぁぁあっ! テメー秀一! 何デコピンなんてしてんだよ! それ以上由香にちょっかい出すんじゃねぇ!」
「お兄ちゃん!?」
たまらず一也が茂みから飛び出した。
「やっぱり君だったのか。茂みの影に隠れ、ずっと僕らを見ていたのは」
「うそ! 酷い!」
「由香、勉強ならお兄ちゃんが教えてやる」
「何言ってるの? お兄ちゃん勉強できないじゃない」
「な……」
「正論だな。君も、こんな馬鹿なことしてないで勉強でもしたら? また赤点取るよ」
「もう! お兄ちゃんったら恥ずかしい! 行こう、秀君」
怒って歩き出してしまった由香を追いかけることができず、一也は呆然としていた。
「やっぱり秀君は頼りになるな。教え方も丁寧で分かりやすいもん」
「僕でよければいつでも聞いてくれていいから。ね」
「ありがとう」
由香と秀一の楽しそうな会話がどんどん遠ざかって行く。
「由香……」
「おーい、一也。バカズヤー。生きてるかー? 返事しろー」
「俺の……由香…………」
茜が呼びかけにも反応せず、由香……と呟く一也をバカにするように夕焼けの空をカラスがアホーアホーと鳴きながら飛んでいた。
「もう! このままじゃ私帰れないじゃない! しっかりしろよこのバカーーーーっ!」