ボイス企画 かずのこ
第13話 良い子悪い子いらない子
茜の手元、進路希望調査用紙
茜「……」
祖母「あら、進路希望調査?」
茜「……おばあちゃん」
祖母「茜はお料理の道に進みたいんだったわね」
茜「うん。……でも、まだお父さんたちには言えてなくて」
祖母「個展が終わって、二人とも今日帰ってくるから話をしてみたら? きっと頭ごなしに反対したりはしないと思うから」
効果音 扉
茜母「ただいまー! 茜、楓、穂、桃ー?」
桃「おかーさん!」
穂「お帰り」
楓「おみやげは?」
茜母「あるわよ。茜! 茜ー?」
茜「お帰りなさい」
茜母「ただいま。おみやげにお菓子買ってきたの。お茶にしましょう」
穂「美味しそう!」
茜母「茜、たまには茜から選びなさい」
茜「え? でも……私はいいよ。桃、先に選んでいいよ」
桃「じゃあねじゃあね、桃これがいい!」
茜母「茜……いいの?」
茜「いいの。私お姉ちゃんだし」
茜母「……あのね、別にお姉ちゃんだからって……」
楓「穂、僕もそっちのがいい!」
穂「えーっ」
楓「この間は穂に譲ってあげたんだ。今度は僕が好きなの選んだっていいだろ」
穂「でも」
楓「なんだよ」
効果音 殴る
穂「お兄ちゃんがぶったーっ!」
穂 泣き
茜「楓、ぶったら駄目でしょ」
楓「うるさいな! あかねーちゃんのブス!」
茜母「こら! お姉ちゃんになんてこと言うの!」
楓「ブスにブスって言って何が悪いんだよ! べーっ!」
茜母「楓っ! 待ちなさい!」
効果音 襖&足音
茜「……お父さん、お菓子は楓のお説教が終わってからみんなで食べようか」
遠くから楓泣き
楓「わーん! ごめんなさい」
茜母「謝る相手が違うでしょう! 少しそこで反省してなさい!」
楓 泣き
***
in茜の両親の部屋
茜「お父さん、お母さん、ちょっといい?」
茜父「どうした?」
効果音 襖
茜「うん……ちょっと。……お母さん、楓は?」
茜母「蔵に放り込んできたわ。大丈夫よ、もう少ししたら迎えに行くから」
茜「そっか……あのね、これ……」
茜父「ん? 進路希望調査?」
茜母「もうそんな年頃なのね。茜が産まれたときのことが懐かしいわ」
茜「あの……あのね。私、料理の勉強がしたいの!」
茜父「料理の?」
茜「うん。だから高校は料理系の学校に行きたいの」
茜母「茜が料理が好きで、上手なことは知ってるし、お母さんもお父さんも好きなことを仕事にしてる。でも、だからこそ身をもって知ってるわ。好きなだけではやっていけないこともある。好きだからこそ辛いことの方が多いかも。仕事にしたことで嫌いになってしまうことだってあるのよ?」
茜「でも……やってみたい」
茜父「そう言えば料理専門の学校があったな……。家庭科とかじゃなく、そういう学校に行きたいのか?」
茜「うん。だから、半端なことはしたくないの。その……高校に行ったらお華と書も辞めて料理一本にしたい」
茜父「……お前の気持ちはわかった。でも、お父さんは反対だ。早すぎる」
茜母「そうね。お母さんも同じ意見だわ」
茜「……」
茜父「まだ料理一本に絞るのは早すぎると思う。もう少しよく考えた方がいい」
茜「考えてる! 考えて進みたいって思ったの!」
茜父「うん。お前が考えなしで言っているとは思ってない。だけどな……」
茜「なんで!? 今までお姉ちゃんだから、お父さんたちが困らないようにって色々我慢してきた。自分の道くらい自分で選ばせてよ!」
茜父「……そんな子はいらない」
茜「っ!?」
茜母「あのね、茜……」
茜、母の伸ばした手を振り払う
茜「そんなこと……そんなこと言わなくてもいいじゃない! 書も華も、お父さんもお母さんも……みんな、みんな大っ嫌いっ!」
効果音 襖
茜、走り去る
茜母「茜!?」
茜父「茜! 待ちなさい!」
***
in河川敷or公園
茜「……お父さんの馬鹿。面と向かってあんなこと言わなくたって……」
一也 自作の変な歌を歌いながら歩いてくる。
一也「あれ? 茜?」
効果音 足音
一也「やっぱり茜だ! こんなとこでどうしたんだ? ……お前、泣いてるのか?」
茜「……泣いてない」
一也「でも」
茜「泣いてない!」
一也「あっそ」
一也、茜の横に座る
茜「……なによ」
一也「別に」
茜「帰れば?」
一也「あのなぁ、遅い時間ではなくても今は冬でもう真っ暗。そんな中一人で泣いてる奴をほったらかして帰れるわけないだろ」
茜「だから泣いてないったら!」
一也「あー悪かった悪かった。目にゴミが入っただけな。にしても茜も案外馬鹿な。なにがあったか知らないけど、コートも着ないでそんな格好でいたら風邪引くぞ。このマフラー使えよ」
一也、マフラーを渡す
茜「……バカズヤのくせに」
間
茜「……ねえ、一也は将来どんな仕事に就きたいの?」
一也「俺? 俺は店を継ぐよ」
茜「それは自分で決めたの?」
一也「当たり前だろ」
茜「じゃあ高校は料理の勉強するの?」
一也「いや、高校は普通に通ってサッカー続ける。料理の勉強はそれからだな。店を継ぐのは夢だけど、今は思いきりサッカーもしたいんだ」
茜「……いいな。好きなことやらせてもらえて」
一也「進路で親と揉めたのか?」
茜「うん……」
***
馬場父「一也!」
一也「父さん」
馬場父「お前牛乳買いに行ったきり全然帰ってこないから心配したぞ」
茜「ごめんなさい。私が引き留めちゃって」
馬場父「茜ちゃん、何かあった?」
茜「え?」
馬場父「目、腫れてるよ?」
茜「何でもないです。……ちょっと両親と喧嘩して。もう私も帰ります」
茜、会釈して歩き出す
一也「茜! どこ行くんだよ! お前ん家そっちじゃないだろ?」
間
効果音 足音
茜「何で余計なこと言うのよ! この馬鹿ぁっ!」
馬場父「茜ちゃん、おじさんでよかったら話聞くよ」
***
茜「……父は……私みたいな子はいらないんだそうです」
一也「茜……」
馬場父「おじさんは茜ちゃんのお父さんとはこの間知り合ったばかりだけど、もう一度ちゃんと話してみた方がいいんじゃないかな? 聞いてみないとなんとも言えないけど、自分の娘をいらない子なんて言う親はいないと思うよ?」
茜「……父の頭の中は書道のことでいっぱいで、他はどうでもいいんです」
茜父「酷い言われようだな」
茜「お父さん……」
効果音 足音
茜父「娘がご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」
馬場父「いえ」
茜父「……探したぞ。上着も着ないで飛び出して……あぁまったくこんなに冷えて。風邪引くだろう」
茜父、茜に上着を着せようとするが茜が上着を投げ捨てる
茜「いらない!」
茜父「茜……」
茜「放っといてよ!」
茜父「茜、話を聞きなさい」
茜「聞きたくない! どうせ私みたいな子は嫌いなんでしょ!? いいもん、私もお父さんなんか大嫌いだもん! こんな子いらないんでしょ!? 邪魔なんでしょ!? いなければいいんでしょ! 私なんか……」
茜父「いい加減にしなさいっ!!」(ひっぱたいてもいいよ)
茜「……」
茜父「茜、最初にこれだけはハッキリさせておく。決してお前はいらない子なんかじゃない」
茜「え……?」
茜父「誤解させるような言い方をして悪かった。茜は長女でお姉ちゃんだ。でも、だからと言って弟妹や親に遠慮なんてしないで欲しい。我慢しなくていい。まだ中学生なんだから我が儘を言ったっていい。下の子たちと喧嘩したっていいんだ」
茜「……でも、でもそんなことしたらお父さんたちが困る」
茜父「困らせていいんだよ。気遣ってくれるのは嬉しいけど、無理して良い子でいようとされる方がお父さんもお母さんも辛い」
茜「……」
茜父「そんな子はいらない。って言ったのは、無理して良い子でいようとする子はいらない。お父さんは欲しくないって意味で言ったんだ。茜をいらない子なんて思ったことは一度たりともないよ」
茜「……本当?」
茜父「当たり前だろ。進路のことも、お前の夢を否定するつもりはない。ただ、道を一つに決めるのは高校を卒業する時でも良いと思うんだ。三年間色々な物をみて、考えて、それからでも遅くはないと思う」
茜「うん……」
茜父「せっかく今までやってきたんだ。書も華も、ここで辞めてしまうのは勿体なくないかな? ……あ、いや……嫌いなら辞めて……」
茜「お父さん?」
茜父「嫌いなことを無理にさせたくはない。辞めていい」
茜「……あ、もしかして書も華も、嫌いって私が言ったから? あれは……その、勢いで……お父さんにも色々酷いこと言って……ごめんなさい」
茜父「……それを聞いて安心したよ。実の娘が嫌々やっていることにも気づけなかったなんて、恥ずかしくて書家なんて名乗れない。教室を畳んで一から修行に出ようかと思っていたところだ」
茜「修行に出るってどこに行くつもり!? やめてよ!」
茜父「帰ろう。みんな心配してるぞ」
茜「……お母さん、怒ってない?」
茜父「怒ってない。華道の勉強を一からやり直さないととか、茜に嫌われたからもう生きていけないって泣いてはいたがな」
茜「二人してやめてよ! 桃が寂しがるでしょ!」
茜父「おや、茜は寂しがってはくれないのか」
茜「……お父さんの意地悪」
茜父「ほら、ちゃんと着なさい」
茜父、茜に上着を着せる。
茜父「すみません、見苦しいところを……」
馬場父「いえ、誤解が解けたなら良かったです」
茜父「そういえばご依頼いただいていた仕事の件、サンプルがいくつかできたので今度お持ちしますね」
馬場「本当ですか!? 是非お願いします!」
手を握ってブンブン
効果音 腹の音
間
一也「……父さん、腹へった」
馬場父「もうこんな時間か」
茜父「仕事の話はまた後日にしましょうか」
馬場父「そうですね」
茜父「では、失礼します。……茜、帰ろう」
茜父、茜の手を取って歩き出す
一也「茜ー! 明日学校でな! 遅刻すんなよーっ!」
おまけ
茜父、携帯で電話をかける
茜父「……灯か。今茜と一緒だ。今から帰る」
茜母、電話の向こうで泣き
茜母「茜私のこと嫌いって言ってない? 顔も見たくないとか言ってない?」
茜父「言ってない。大丈夫だ」
茜母「本当? 本当の本当に本当?」
茜父「あぁ本当だ」
茜母「茜に嫌われたら私……私……っ」
茜父「大丈夫だから落ち着け。……ところで灯、お前楓を蔵から出したか?」
茜母「え? 楓……? ……ああぁぁあーっ! 忘れてた!」
茜「楓可哀想に……」
***
一也「ただいまー」
由香「おかえり。遅かっ……なにその荷物!」
一也「抹茶」
由香「抹茶ぁ?」
馬場父「春に店で抹茶フェアーやるだろ? その試作品を作るためにな。もちろん使う抹茶にも拘るつもりだが、取り急ぎスーパーで買ってきた」
由香「ちょっと買いすぎじゃないの?」
一也「うん。さっき茜の父さんに偶然会って、スイッチ入っちゃったみたい」
由香「……」
一也「朝昼晩しばらく抹茶だな」
由香「……」
馬場父「そうだ由香! お前茶道教室通わないか?」
由香「はぁ!?」