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第11話 母の手料理

 

 

効果音 チャイム・ガヤ

 

知己「はー、お腹すいた」

友「由香、早くお昼食べよ」

由香「うん」

 

 

友「そう言えば五時間目の英語、テストだよね」

由香「この間の抜き打ちテストが酷かったからって先生言ってたね」

知己「憂鬱だ……」

 

友、知己ため息

 

友「私この間のテスト親に見つかってさ、もう勉強しろって煩くて」

知己「駄目だよ、テストはばれないように隠さないと」

友「由香んとこは?」

由香「え?」

友「親、煩くないの?」

由香「うちはあんまり言われないかな」

友「いいなー。由香のお父さん優しいし、口煩いこと言わなさそうだし……そう言えば由香ってお母さんのこと全然話さないよね。どんな人?」

由香「えっと……どんな人って言われても……」

賢二「……おい由香、ちょっと来い」

友「由香、ちょっと来い。だってー。天野君って少し派手なところあるけど、頭良いしイケメンの部類だよね」

由香「ちょっとやめてよ、賢くんはそんなんじゃ……」

友「わかってるよ、由香が好きなのは天野兄の方だもんね」

由香「きゃー! やめてーっ! 言わないで!」

知己「ほら、いいから早く行きなよ」

 

由香「賢くんなに?」

賢二「別に、なんもない」

由香「え? だって……」

賢二「分かりやすいんだよお前。……親の事聞かれたんだろ? スゲー顔してたぞ」

由香「それでわざわざ?」

賢二「俺はさ、お前の家の事情も知ってるけどアイツらには話してないんだろ? 悪気はねーんだろうけど、言いたくないならもうちょっと上手くかわせよな」

由香「うん……」

賢二「……どうした?」

由香「言いたくないって言うか、言えることがないんだ」

賢二「え?」

由香「お母さんのこと、わからない。あんまり覚えてないの……って、ごめん。こんなこと言われても困るよね。わざわざありがとう」

賢二「……おう。近くにいなくてもわかるくらい酷い顔してたぞ」

由香「そんなに?」

賢二「あぁ。とびっきりの不細工顔!」

由香「不細工ってなによ! 不細工って!」

賢二「そんだけ言い返す元気があれば大丈夫だな! んじゃ、俺もう行くわ」

由香「もう! 賢くんの意地悪!」

 

***

 

inスーパー

 

由香「えっと、後は卵と牛乳と……」

穂「お母さん、今日の晩ごはん唐揚げがいいな!」

楓「僕は炊き込みご飯がいい!」

桃「桃はプリンがいい!」

茜母「茜は? 茜は何が食べたい?」

茜「え? 私は別に……」

茜母「いいから。何が食べたいの?」

茜「えっと……茶碗蒸し、がいいな」

茜母「じゃあ今日は炊き込みご飯に唐揚げ、茶碗蒸しね」

楓「やった!」

穂「やった!」

桃「えー! プリンは?」

茜母「プリンは明日のおやつね。あ、あとひじきも作っちゃおうかな!」

楓「ひじき!」

茜母「みんな知ってた? ひじきにレバーを入れるのはお婆ちゃん直伝の作り方で、うちだけなのよ」

楓「知ってる。給食のには入ってないもん」

穂「僕レバー嫌いだから入ってない方が良いなぁ」

茜母「えー」

桃「ねえプリンー」

由香「……」

秀一「母さん? ちょっと買いすぎじゃあ……」

秀母「いいの! 今日こそ賢ちゃんに美味しいって言わせるんだから!」

秀一「でもこれはちょっと……」

秀一母「えっと……あとはクリームチーズ、ヨーグルト、ブロッコリーと鶏肉、こんにゃくにお豆腐……餃子の皮ね」

秀一「ちょっと待って! なに作る気!?」

由香「お母さんの味……手料理、か」

 

***

 

 

馬場父「一也、次の連休は部活か?」

一也「いや、休みだけど?」

馬場父「じゃあ由香と○○(地名でも名字でも可)のおばあちゃんとこ行ってこい」

一也「○○のおばあちゃんって母さんの?」

馬場父「あぁ。何年も会ってないだろ? おじいちゃんもおばあちゃんも会いたがってたぞ」

一也「母さん亡くなってからあんまり行かなくなっちゃったもんなぁ」

馬場父「由香は母さんに似てきたし、きっとビックリするだろうな」

由香「別に……」

 

一也「由香?」

由香「顔もよく覚えてないような人に似てるなんて言われてもちっとも嬉しくない!」

一也「おい由香」

由香「顔どころか叱られたことも、手料理の味も覚えてないんだから最初からいないのと同じよ! 私たちを残して死んじゃったお母さんなんか……っ!」

馬場父「由香っ!」

由香「ぁ……ごめ……」

 

効果音 足音走る

由香、部屋を飛び出す

 

馬場父「由香!」

 

効果音 ドア閉まる

 

由香「あんなこと言うつもりじゃなかったのに……ただ覚えてないのが悔しくて、悲しくて、忘れたくないのに私の中からお母さんがどんどん消えていく。嫌だよ……っ」

 

由香 泣き

 

 馬場父「由香、開けてくれないか? ちょっと……話をしよう?」

 

効果音 ドアあける

 

由香「お父さん、あの……」

馬場父「一也、それそこ置いて」

一也「ん」

馬場父「由香、一也も、母さんの物は写真も全部この箱の中にしまってある。好きに見ていいから」

由香「なんで……どうしてしまってたの?」

一也「……俺、なんとなく覚えてるよ。母さんが亡くなって、由香は母さんに会いたいっていっつも泣いてた。だからだろ?」

馬場父「まぁ……突然の事故だったから父さんも母さんの遺品みるの辛くてさ、由香も泣くし目につかない場所にって思ったんだ。でも間違ってたな……。お前たちはまだ小さかったんだから、父さんが母さんのことちゃんと話してあげないといけなかったのに」

 

効果音 ガサゴソ

 

馬場父「あったあった……。由香、これ」

 

『わたしのかぞくをしょうかいします

1ねん1くみ ばばゆか

私の家はお父さんとお兄ちゃん、私の3人暮らしです。

お母さんはお空にいっちゃったので、お母さんのことを忘れないようにお母さんのことをいっぱい書きます』

 

由香「!?」

馬場父「由香、自分で母さんのこと色々書いてるんだよ」

 

『私のお父さんもお母さんもとっても料理が上手ですが、お母さんの作ったオムライスが一番美味しくて好きです』

 

由香「お母さんのオムライス……そうだ。私お母さんのオムライスが大好きで……」

 

『それから怒ると怖くてお父さんとお兄ちゃんがいつもバカなことをして叱られてました。怖いけど、とっても優しいお母さんで、お母さんの髪飾りがキレイだから欲しいって言ったら由香が大きくなったらあげるね。って言われました。だから早く大きくなりたいです』

 

由香「……私」

馬場父「これを由香にって母さんが」

由香「これ……昔お母さんが使ってた……」

馬場父「この作文の中に書いてある髪飾りだよ。由香が大きくなったらあげるんだって嬉しそうにしてたよ」

 

由香「うん……。お父さん、あの……」

馬場父「ん?」

由香「さっきのことだけど、本気で思ってたわけじゃないの。今日ちょっと色々あって……なんでお母さんがいないんだろうって寂しくなっちゃって……」

馬場父「うん」

由香「ごめんなさい……」

馬場父「さっき母さんの手料理の味を覚えてないって由香は言ったけど、店で出してるオムライスとケチャップは母さんのオリジナルのレシピなんだぞ」

由香「え?」

馬場父「あれがお母さんの味だ。まぁ、父さんじゃお母さんの味には到底及ばないかもしれないけど……」

 

***

 

数日後

 

馬場父「じゃあ気を付けてな」

一也「うん」

由香「ちょっとお兄ちゃん、お土産忘れてる!」

一也「あ、ごめん」

由香「もうしっかりしてよ!」

馬場父「おじいちゃんとおばあちゃんによろしくな」

一也・由香「行ってきます!

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