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第10話 天野夫妻の離婚

 

賢二『お母さん! みて!』

秀一母『あら、テストが返ってきたの? 92点?』

賢二『僕ね、すっごく頑張……』

秀一母『賢ちゃん、もう少し頑張らないと駄目よ?』

賢二『え……』

秀一母『去年お兄ちゃんは98点だったんだから』

賢二『……』

 

効果音ドア

賢二泣き

 

秀一『賢? どうしたの? なんで泣いて……』

賢二『うるさいっ! 秀兄なんて嫌いだ! あっち行け!』

秀一『賢?』

 

効果音ドア

 

秀一母『賢ちゃん! 聞こえてたわよ、お兄ちゃんになんてこと言うの!? 謝りなさい!』

賢二『お母さんも秀兄も大っ嫌いだ!』

 

 

賢二「ーっ!(荒い呼吸)……久し振りに嫌な夢みたな……」

 

***

 

効果音ドア

秀一帰宅

 

秀一「ただい……」

一也「いやー助かったよ賢」

秀一「一也……?」

一也「二年の問題なのに教科書みただけでわかるなんて流石だな!」

賢二「たぶんあってると思いますけど、習ったわけじゃないっすから一応誰かに聞いて確認してくださいよ?」

一也「いや、賢が言うなら間違いないだろ。にしてもお前教え方うまいし、本当頭いいのな。特進いけんじゃねえの?」

賢二「え、あぁ……」

一也「どうした?」

賢二「……ここだけの話、実は俺特進蹴ったんです」

一也「え!? マジ? なんで?」

賢二「まぁ……いろいろとあって……」

一也「まぁいいけどさ。また教えてくれよな!」

賢二「後輩にきかないでくださいよ!」

 

効果音ドア

 

秀一「……賢」

 

一也「よ! 秀一! お前に宿題聞こうと思ってきたら賢が教えてくれてさ……」

秀一「一也、少し黙ってて。……今の、どういうことだ?」

賢二「なんだよ……聞いてたのか」

秀一「お前、特進は落ちたって言ってなかったか?」

賢二「あぁ。……聞かれてたんなら隠しても仕方ねぇから言うけど、蹴ったんだよ、特進」

秀一「なんでそんなこと……そんなことしなければ母さんだって」

賢二「お前に何がわかるんだよ! 何をやっても二言目には兄貴兄貴兄貴兄貴って、うんざりなんだよっ! 挙句の果てにはお兄ちゃんはもっとできるのに。だと!? ふざけんじゃねえ! だったらいっそのこと受験に失敗して失望でもなんでもしてもらった方が良いって思ったんだよ!」

一也「おい、賢落ち着け!」

賢二「そしたら狙い通り母親からはクズ認定。俺にはなんの関心も示さなくなって精々してんだよっ!」

 

賢二、部屋を出て行こうとする

 

秀一「待て!」

賢二「離せよ」

秀一「……」

賢二「離せって言ってんだろ!」

秀一「ごめん……僕のせいで賢に嫌な思いさせて……」

賢二「別にお前が謝ることじゃないだろ。俺がクズなだけだ」

秀一「違う! 賢はクズなんかじゃない! ……賢の言う通りだ。なんでもかんでも比べられたら嫌になって当然だ。賢には賢の良いところかいっぱいあるのに」

 

効果音 ドア

 

賢二「っ!?」

秀一父「……賢二」

秀一母「賢ちゃん……」

賢二「なんでいんだよ……」

秀一母「賢ちゃん、あの……」

賢二「クソが!」

秀一「賢!」

 

賢二走り去り、秀一追いかける。

 

秀一母「私……私が賢ちゃんを追い詰めてた……私のせいで……」

秀一父「“私たち”だろ。賢二が悩んでるのを知りながら、気にするな。と言うだけで俺はなにもしなかった。俺達が仮面夫婦でいたせいで余計に追い詰めたんだろう」

秀一母「……」

一也「あの……」

秀一父「一也君、だったな」

一也「はい」

秀一父「変なところを見せてしまったね」

一也「いえ……あの、おばさんは賢のこと嫌いなの?」

秀一母「嫌いだなんてそんな!」

一也「賢は関心を持たれなくて精々してるって言ってたけど、あれは本心じゃないと俺は思うな」

秀一母「え?」

一也「喧嘩しても俺は心の底から家族を嫌うことはできないから、賢もそうだと思う」

秀一母「そう……かしら」

一也「人の家の問題にこれ以上首を突っ込むのもあれなんで、帰ります。お邪魔しました」

 

効果音 ドア

一也帰る

 

秀一父「……行くぞ」

秀一母「え?」

 

秀一父「子供たちを探しに。だ。それともやっぱりお前は賢二のことはどうでもいいのか?」

秀一母「そんなことないわ! そりゃあ受験に失敗した時はガッカリしたし、あまり話をしてくれなくなったのもそういう年頃なんだって思うくらいで……。秀ちゃんと比べてたのだって、賢ちゃんもできるはずって思ったらつい言ってしまったけど、嫌いなわけないじゃない!」

秀一父「なら行こう。今探しにいかないと賢二との関係は二度と修復できなくなるぞ」

母「っ!」

 

inバッティングセンター

効果音 携帯のバイブ

 

秀一「賢、さっきからケータイ鳴ってるよ」

賢二「……」

秀一「父さんからも母さんからも……凄い量の着信だ」

賢二「……知るかよ」

秀一「帰ろう。ね?」

賢二「一人で帰ればいいだろ。……てか、なんでお前いるんだよ」

秀一「だって、ほっといたら賢帰ってこないだろ?」

賢二「……」

 

効果音 ケータイのバイブ

 

秀一「もしもし? 父さん?」

賢二「は!? なにテメー人の携帯勝手に出てんだよ!」

秀一「だって僕の携帯家だし。……うん、そう。駅前のバッティングセンターにいる。うん。わかった」

 

電話 切る

 

秀一「父さん今から来るって。……ちょ、こら賢! どこ行くんだ!」

賢二「離せ、くっつくなキモイ!」

秀一「父さんが来るって言ってるだろ!」

賢二「だからどっか行こうとしてんだろ! 引っ張るな、服が延びる!」

 

天野兄弟ぎゃいぎゃい

 

賢二「ぎゃー! 首が絞まる!」

秀一「うわあぁっ! ごめん」

賢二「お前俺を殺す気か! いいから離せ」

秀一「……嫌だ」

賢二「離せよ」

秀一「い、や、だ」

 

①「あれ……賢じゃね? おい、賢二」

賢二「だーもう離せ……あ、徹さん……」

②「ひさしぶりだな。お前全然最近顔出さねえし付き合い悪くね?」

賢二「すんません。最近親帰ってきてて色々煩くて」

秀一「賢……知り合いか?」

①「……もしかしてそこにいんの、前に言ってたスゲーウゼエ兄貴?」

秀一「!?」

賢二「あ……まぁそうっす」

②「ま、どうでもいいけどよ、今からみんなで集まるんだ。来いよ」

賢二「えっと……」

秀一「賢、帰るよ」

①「うっさいな、良い子ちゃんの兄貴は黙ってろよ。行こうぜ、賢」

秀一「賢」

賢二「……あの、徹さん……今日はちょっと……」

警察官「こら! そこの子供! こんな時間になにやってる!」

①「やべ! 補導される! 賢」

賢二「……」

①「なんだよ、お前も結局は良い子ちゃんかよ!」

②「もういい。こんな奴ほっとけ。行くぞ!」

 

効果音足音

 

秀一父「秀一! 賢二!」

秀一「父さん」

秀一父「すみません、少し子供を待たせていて……」

警察官「そうでしたか。遅い時間に子供だけでいると補導されてしまう可能性がありますから、気を付けてくださいね」

秀一父「すみません、ご迷惑をおかけしました」

 

警察官去る

 

 秀一母「ごめんなさい賢ちゃん……賢ちゃんをそんなに追い詰めていたなんて……ママ、考えてもいなくて」

秀一父「……お前たちが出ていった後、母さんと話をしてな。父さんも仕事ばかりで家の事は母さんに任せっきりにしていたから、お前たちにも母さんにも寂しい思いをさせて悪かった。賢二が悩んでることも気づいてはいたが、そこまで思い詰めてたとは……」

秀一母「ママがどうかしてたわ……。賢ちゃんは賢ちゃん、秀ちゃんは秀ちゃん。比べる必用なんてないのに」

賢二「……」

秀一父「父さんと母さんの夫婦関係も破綻していた。離れた方がお互い幸せになれるんじゃないかとも考えたんだ」

秀一「な……っ」

秀一父「でもまずは歩み寄る努力をしようと思う。だからお前たちにも力を貸して欲しいんだ」

 

***

 

効果音ドア

 

秀一母「あ、賢ちゃんおはよう。早いのね」

賢二「……朝練だから」

秀一父「サッカー部だったな、頑張れよ」

賢二「うん」

秀一母「ちょっと賢ちゃん! 朝ごはん」

賢二「時間ないからいらない」

秀一母「ダメよ! お握りにしたから」

 

賢二、お握り食べる

 

賢二「……不味い」

秀一母「う……っ」

賢二「部活の時、家庭科部の先輩が差し入れてくれたやつの方が何倍も旨い。本当塩加減最低。お握りが不味いとかある意味才能だな」

秀一母「……」

賢二「でも……こんな不味いの(母さんが作ったの)ひさしぶりでちょっと懐かしいな……」

秀一母「賢ちゃん……」

 

効果音時計

 

賢二「ってやべ! 遅れる!」

秀一父「気を付けて行けよ」

賢二「あぁ」

 

効果音ドア

 

秀一父「……よかったな」

 

秀一母、泣き

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